理化学研究所里庄セミナー

第30回 理化学研究所里庄セミナー

  • 令和6年8月17日(土)
  • 仁科会館 仁科記念ホール
第30回 理化学研究所里庄セミナー
 理化学研究所里庄セミナーは、仁科芳雄博士ゆかりの理化学研究所の研究者を招聘し、世界最先端の研究を一般の方々になるべく分かりやすくご講演いただいています。平成4年に開始し今年で30回目となりました。今年は約100名の方が来場し、講演に耳を傾けました。

演題:スーパーコンピュータで迫る物質創成の謎

青木 保道先生
講師 : 青木 保道(あおき やすみち)先生

国立研究開発法人 理化学研究所
計算科学研究センター 連続系場の理論研究チーム チームリーダー

講演概要

世界を構成する物質の質量は、素粒子の複雑な相互作用によって生み出されます。その中でも最も重要な相互作用が量子色力学(QCD)という理論で説明できます。QCDから物質の質量を導くには、その複雑な相互作用をスーパーコンピュータでシミュレーションするのが最も有力な手法です。1980年にアメリカで最初のシミュレーションが行われて以来、手法の改良とコンピュータの性能向上により、今では初期宇宙の物質創成時のシミュレーションができるようになってきました。本講演ではスーパーコンピュータ「富岳」で行われているそのような計算の最前線に触れつつ、仁科先生が日本に切り拓いた素粒子物理の現在と未来を皆さんと一緒に見ていきたいと思います。

講演の様子

 初めに講演の結論、スーパーコンピュータ(スパコン)でのシミュレーションによるQCD相転移の計算結果が示されました。陽子や中性子が溶けるほどの高温で何が起きるかを表し、ビッグバン直後で高温だった初期宇宙での物質創成に関係しているそうです。
 まずスパコンのシミュレーションではどのような計算をしているのかを、円周率の計算を例に説明されました。
あらゆる物質は原子でできていて、原子の中心には陽子と中性子が集まった原子核があります。陽子はクォーク3個からなり、クォークの質量は陽子の質量の300分の1であり、一見不思議ですがQCDという理論を用いたスパコンによるシミュレーションで導けます。
 相転移について、水は0℃で氷になり、100℃で水蒸気になる、つまり温度で相が転移すると説明がありました。陽子や中性子が高温で溶ける時の相転移をスパコンで計算したのが冒頭の図で、「場の移行はあるが非連続な相転移はない」という結論が得られたそうです。
 実験結果と併せて物質創成の謎に深くメスを入れる事を目指しアルゴリズム開発中との事で、今後の研究の進展が楽しみです。

演題:国際宇宙ステーションから全天X線観測

三原 建弘先生
講師 : 三原 建弘(みはら たてひろ)先生

国立研究開発法人 理化学研究所
仁科加速器科学研究センター 宇宙放射線研究室 専任研究員

講演概要

仁科芳雄博士は戦前、日本の素粒子・原子核・宇宙線研究の礎を築かれました。そのうち宇宙線研究は、戦後日本各地での宇宙線モニタ観測、高地での中性子線観測、気球を用いた高空からの宇宙線観測と続き、1987年からは人工衛星を用いた観測が行われています。そして陽子や電子だけでなくX線でも宇宙放射線が観測できるようになりました。これらのX線はブラックホール連星や中性子星パルサーから発せられており、理研では2009年から全天X線監視装置MAXI(マキシ)を国際宇宙ステーションに取り付け、全天に散らばる変動の激しいX線天体を連続的に観測しています。MAXIは35個のX線新星を発見し、うち14個はブラックホール天体でした。講演ではMAXIの見た激動するX線宇宙をご紹介します。

講演の様子

 三原先生は国際宇宙ステーション(ISS)に設置したMAXIを用いてX線の全天マップを作っています。X線は大気で吸収されるので、天体からのX線を観測するには宇宙に行く必要があります。
 可視光で見た空は6000℃の宇宙、X線で見た空は1000万℃の宇宙で、太陽は見えずブラックホールや新星が見えます。2024年と2019年の全天マップを比較して、2019年だけにあるX線天体がその年の新星である事を説明されました。
 次に新星をどうやって発見するかについて説明がありました。新星はいつどこに出現するかが全く分からないので、アラートシステムを構築する必要があります。これにより15年間で35個の新星を発見したそうです。
 最近発見された重力波天体に関しては、MAXIではブラックホール同士の合体は観測できないが中性子星の合体は観測できるそうです。
 MAXIのさらなる進化として、今まで地上のコンピュータで解析していたデータをISSでリアルタイムに解析することで、3時間かかっていた追加観測が数分に短縮できるとの事です。

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