演題:生命現象と「光」
講師 : 渡邉 朋信(わたなべ とものぶ)先生
国立研究開発法人理化学研究所
生命機能科学研究センター
先端バイオイメージング研究チーム
チームリーダー
講演概要
私は「生命現象において、唯一無二の事象など存在せず、全ての事象に相関がある」と考えています。たとえば、光を細胞に照射すると、光は細胞内部の分子等の状態により影響を受けてから散乱されます。一方、細胞の遺伝子発現の変化は、内部の分子の種類や状態を変化させます。すなわち、細胞に光を当てた時の散乱光は、細胞の遺伝子発現を反映しており、散乱光から遺伝子発現を推定できる可能性があります。これは大小種類を問わず因果関係が複雑に絡み合う生命現象の特徴であると共に、光の新しい使い方を私たちに提案してくれます。本講演では、私の一風変わった生命観と研究戦略を楽しんで頂けるよう、お話ししたいと思います。
講演の様子
渡邉先生は「細胞を作ること」、「細胞を見るためのレーザーを作ること」、「光学顕微鏡システムを自作して細胞を見ること」すべてができる独創的な研究チームを主宰しています。研究分野間の壁が低い理研ならではの研究チームだそうです。
分子、DNA、タンパク質、細胞小器官、細胞、組織/器官、個体など生物には様々なスケールがありますが、それらに共通の原理があるのではないかという問題意識で研究されているそうです。そして本講演のメッセージ「生命の中では自由度が限られる」が示されました。生物の各々のスケールで、膨大な数の「個」が関係をもち「集合」を作る過程で自由度が限られることを、遺伝子と細胞の関係を例に説明されました。生物を測定する「光」として分子を測定できる「ラマン散乱」をとりあげ、生物の特徴を考慮して機械学習を用いると分子の情報だけでなく細胞の種類や状態まで識別できることを紹介されました。
講演の要所でまとめを入れるなど、大変分かりやすいご講演でした。