平成18年8月19日(土)仁科会館にて

 仁科博士のサイクロトロンに始まる我が国の加速器科学の進展はめざましく、特にサイクロトロンは、医療用を中心に国内に数千基が設置されているといいます。 第15回の理化学研究所里庄セミナーは、仁科博士のサイクロトロンの延長線上にある施設の一つである放射光施設「スプリング8」から、放射光を作る研究者とそれを使ってタンパク質の構造解析に取り組む研究者のお二人の来館を頂きお話を伺いました。
 仁科会館の仁科記念ホールは、中高校生60名はじめ130名の参加で満席となりました。


  

講演1:夢の光「X線自由電子レーザー」

北村英男先生

独立行政法人理化学研究所
播磨研究所放射光科学総合研究センター
北村X線超放射研究室主任研究員

1947年生まれ 理学博士
東京大学物性研究所助手・高エネルギー 物理学研究所教授を経て、1997年から理化学研究所主研究員
1991年:仁科記念賞受賞
専門分野は放射光科学

 
 最先端の科学研究や産業界から民生機器に至るまで幅広く活用されているレーザーと、透過能力のあるX線域の光の長所を合わせ持った光源であるX線自由電子レーザーの開発には、国家基幹プロジェクトとして期待がかかっています。Spring-8の敷地内で建設中のX線自由電子レーザーの開発担当者の先生が、その原理と装置の建設、タンパク質の構造解析といった基礎科学から新薬開発に至る幅広い応用範囲にわたって、動画を駆使したプレゼンテーションによって、分かりやすくお話し下さいました。

 研究者の専門的なご質問から高校生の素朴な疑問にいたるまで丁寧にお答え下さり、科学の世界の新らたな夢の持てる至福の時を過ごして頂くことができました。


 

講演2:「X線構造解析で知るタンパク質のはたらくしくみ」

山下 敦子 先生

独立行政法人理化学研究所
播磨研究所放射光科学総合研究センター
構造生理学研究グループ
分子シグナリングチーム チームリーダー

1970年京都府生まれ 農学博士
理化学研究所基礎科学特別研究員を経て播磨研究所研究員。この間2003年から2005年まで、コロンビア大学博士研究員。2006年から現職
専門分野は、構造生物学

 

 私たち生物の体内にあって、生きていくために必要な多様な生体反応を担っているさまざまなタンパク質とそのはたらくしくみを解明するために、X線結晶構造解析の手法を用いて取り組んでおられる研究の内容を、身近な例を引きながら簡潔で明快にご紹介下さいました。また、研究活動が研究者単独ではなく国内外の多くの研究者の方々とのネットワークの中で切磋琢磨しながら進められている様子が伝わって参りました。

 質問に立った中学生の「お子さんにも、ご自分のような研究者になって欲しいですか」という質問に答えて「私の娘が選んだとしても、やるに値する楽しいすばらしい仕事だと思っています」と、ご自身の心境を述べられたことが印象的でした。