平成19年8月18日(土)仁科会館にて

「日本の現代物理学の父」といわれる仁科芳雄博士は、「日本放射線生物学の先駆者」ともいわれています。仁科研究室は、物理学の研究者のほかに化学者・生物学者・医学者等を擁し、サイクロトロンも物理学の研究の他に、放射性同位元素(ラジオアイソトープ)を生産して医療用や研究に使用し、またサイクロトロンからでるビームを直接照射するといった風に幅広く活用されていました。その伝統はいまも、理化学研究所仁科加速器研究センターにおいて脈々と受け継がれ今日に至っています。
今回のセミナーでは、サイクロトロンを使った新しい植物の育種に取り組む研究者、岡山県生物化学総合研究所とも連携しながらゲノム科学の面から植物の改良に迫る研究者のお二人から、最前線の研究の一端を紹介いただきました。

会場となった仁科会館仁科記念ホールは、中高校生20余名と学校の先生方約40名に加えて一般市民の皆様方が加わり130余名のご参加を頂き満席となりました。短い時間しかとれませんでしたが、質問コーナーでは、一人の質問に、研究者お二人と大河内理事が加わって3人でお答え頂くなど盛り上がりました。

  

講演1:「植物の細胞戦略:大きな植物を作る」

−エンドレデュープリケーション、細胞を分裂させずに大きくする仕組み−

松井 南 先生

独行政法人理化学研究所
横浜研究所植物科学研究センター
植物ゲノム機能研究グループ
グループディレクター
1958年東京都生まれ 理学博士
京都大学大学院理学研究科修了。

日本獣医畜産大学・日本医科大学講師等をへて理化学研究所研究員。      
2006年から現職。              
専門分野は、植物ゲノム光形態形成。
 
 植物も動物と同じように細胞から出来ていますが、植物には動物ではあまり用いられていない細胞分裂の仕組みが見られます。植物の胚乳(食べるところ)や、葉、茎などは細胞が分裂するよりも細胞内の染色体数を増やして細胞が大きくなる。
  このような植物の生命戦略ともいうべきエンドレデュープリケーションの仕組みと意義について、聞き手の様々なニーズに応じて理解できるよう資料を駆使してお話しくださいました。   
 

 

講演2:「サイクロトロンを使った新しい植物誕生物語」

阿部 知子 先生

独立行政法人理化学研究所
和光研究所仁科加速器研究センター
応用研究部門加速器応用研究グループ
生物照射チーム副チームリーダー

東京都生まれ 農学博士
日本学術振興会特別研究員、理化学研究所基礎科学特別研究員を経て理化学研究所研究員。
2006年から現職
専門分野は、加速器生物学

 
  「おいしいものを食べたい」・「美しい花を愛でたい」といった欲求から私たち人間は、遙か昔から栽培植物を育成してきました。元となる植物を探したり、すでに栽培している植物を交配したりしますが、サイクロトロンを使うと植物に変化を起こし新しい植物を作ることができます。

理化学研究所で成功した、色や形が美しい花、長い間花が咲く植物、背が低く台風でも倒れないソバ、世界初の対塩性イネ等の成果について、豊富な画像を交えて分かりやすくお話しくださいました。