平成26年8月16日
仁科会館 仁科記念ホールにて

 仁科芳雄博士は、20世紀前半に活躍した岡山県里庄町出身の世界的な物理学者で、日本の原子物理学の父として尊敬されています。ヨーロッパで当時完成しつつあった現代物理学の基礎となる量子力学を研究し「クライン・仁科の公式」を導出しました。帰国後は理化学研究所で仁科研究室を主宰し、さらに戦後には理化学研究所の第4代所長を務めるなど、後進の育成にも大きな功績があります。

 理化学研究所里庄セミナーは、仁科芳雄博士ゆかりの理化学研究所の研究者を招聘し、世界最先端の研究を一般の方々になるべく分かりやすくご講演いただいています。平成4年にスタートし今年で23回目となりました。今年も約80名の方が来場し、講演に耳を傾けました。

 

演題:理研小型中性子源システムで見えた!日本の橋梁安心安全への道

講師
独立行政法人理化学研究所
光量子工学研究領域
光量子技術基盤開発グループ
中性子ビーム技術開発チーム
チームリーダー
大竹 淑恵 博士

 中性子を用いて橋を壊さずに検査するシステムについてご講演いただきました。中性子はX線と同様に物を壊さずに中に入っていく性質がありますが、X線では金属や骨など固い物が見えるのに対して、中性子では水を見ることができます。この性質を利用するとコンクリート中の鉄骨のサビ具合が分かるので橋の検査に有効です。さらにサビを検査することにとどまらず、シミュレーションと組み合わせることで橋がいつ壊れてしまうのか予測もできるようになるそうです。現在は長さ15mという大型な装置が必要ですが、今後数年でトラックで持ち運びできるよう装置を小型化していくとのことで、楽しみです。

 

演題:加速器を用いた新元素探索の最前線

講師
独立行政法人理化学研究所
仁科加速器研究センター
超重元素研究グループ
超重元素分析装置開発チーム
チームリーダー
森本 幸司 博士

 自然界には存在しない重い新元素を、加速器を用いて作る研究についてご講演いただきました。はじめに今までの新元素発見の歴史についての解説があり、日本でも仁科博士を含め過去何回か新元素発見のチャンスがあったものの、惜しくも逃してきたとのことでした。重い新元素を作るのになぜ加速器が必要か、寿命が1秒よりはるかに短い新元素を作った証拠をどうつかむのかについて説明があり、理化学研究所で113番元素を作った研究について説明がありました。2個作った後、3個目を作るまで7年間かかっていて、基礎研究の大変さを実感しました。現在119番、120番元素の発見に向けて研究が進行中とのことで、こちらも楽しみです。