平成27年8月22日(土)
仁科会館 仁科記念ホール

 理化学研究所里庄セミナーは、仁科芳雄博士ゆかりの理化学研究所の研究者を招聘し、世界最先端の研究を一般の方々になるべく分かりやすくご講演いただいています。平成4年にスタートし今年で24回目となりました。今年は40名以上の中高生を含む約120名の方が来場し、講演に耳を傾けました。

 

演題:くすりを作る微生物

講師
国立研究開発法人理化学研究所
伊藤ナノ医工学研究室
専任研究員

植木 雅志(うえき まさし)博士

講演概要
私たちは、微生物に囲まれて生きています。微生物なくして、我々は生きていけません。有史以前の微生物の存在が知られていない時から、人類は微生物の働きを上手く利用して暮らしてきました。一方で、様々な病気を起こす微生物も多く存在し、たくさんの命が奪われてきました。しかし、それら病原微生物の生育を他の微生物が抑えることが見つかり、抗生物質ペニシリンの発見につながりました。今では、微生物が作り出した「物質」を基にして、数多くの医薬・農薬が実用化されていますが、どんな微生物がその「物質」を作るのか、くすりを作る微生物に焦点をあてて、微生物と我々の生活の関わり合いを紹介します。

講演の様子
くすりを作る微生物について、放線菌の話を中心にご講演いただきました。代表例として仁科博士も生産に取り組んだペニシリンや結核に効くストレプトマイシンが開発された歴史について説明がありました。そして、微生物の培養方法について詳しい解説がありました。最近の薬作りでは微生物の利用より化学合成が主流になりつつあるそうですが、微生物による創薬が現代でも重要である理由を強調されていました。知らない言葉を調べる時は最低3つの辞書・事典を調べてほしい、共通する説明が重要なポイントです、というアドバイスは、肝に銘ずるべき話で印象に残りました。

 

演題:私たちはなぜ重いか
   −宇宙誕生・天地創造・万物創生、ヒッグス粒子から超重元素まで−

講師
国立研究開発法人理化学研究所
仁科加速器研究センター
センター長

延與 秀人(えんよ ひでと)博士

講演概要
仁科芳雄先生は1932 年に理化学研究所の主任研究員となり、日本で初めてのサイクロトロン型加速器を作りました。仁科先生が作った2台目のサイクロトロンは既に世界最高の加速能力を持っていました。それから80余年、日本は世界でも有数の加速器大国になっています。加速器が解き明かす様々な研究テーマの中から、宇宙創成以来の138億年の歴史を紐解く研究に言及したいと思います。「私たちはどうやってできたのだろう?」「私たちはなんで重いのだろう?」という疑問、すなわち「物質の起源」と「質量の起源」にかかわる疑問に、最新の研究成果を交えながら、分かりやすく答えたいと思います。

講演の様子
はじめに仁科博士が作製したサイクロトロン、そして仁科博士の夢を実現した仁科加速器研究センターのサイクロトロンについて紹介がありました。次に私たちの身の回りのものや私たち自身が何からできているかについてお話がありました。さらにその材料からどのように物質ができているのか、そしてどうやってできたのかについて、宇宙138億年の歴史や星の一生とからめて説明がありました。私たちの質量の起源については、「自発的対称性の破れ」という仕組みで2段階で質量を獲得するとのことでした。難しい概念を簡単な実験や身近な例えを駆使して解説した講演で、大変好評でした。