平成28年8月20日(土)
仁科会館 仁科記念ホール

 理化学研究所里庄セミナーは、仁科芳雄博士ゆかりの理化学研究所の研究者を招聘し、世界最先端の研究を一般の方々になるべく分かりやすくご講演いただいています。平成4年にスタートし今年で25回目となりました。今年は30名以上の中高生を含む約120名の方が来場し、講演に耳を傾けました。

 

演題:海底の電気で生きる微生物
    環境、エネルギー、そして生命の起源へ

講師
国立研究開発法人理化学研究所
環境資源科学研究センター
生体機能触媒研究チーム
チームリーダー
中村 龍平(なかむら りゅうへい)博士

講演概要
 私たちは毎日、植物が太陽光を浴びてできた作物を食べることでエネルギーを得ています。一方で太陽の届かない深海底にはエネルギー源がなく、生命の存在しない死の世界だと思われてきました。しかし、海底火山の周りには多くの生物がいることが40年ほど前に明らかになりました。さらに、海底火山は電気の流れを作り、電気を使って生きる微生物がいることも最近わかってきました。
 太古の昔から海底には電気の流れがあったのに、人類がそれに気づいたのはごくごく最近です。そこから見えてくる、環境・エネルギー問題に向けて役立つ技術、さらには生命の起源。最前線の研究をご紹介します。

講演の様子
 光が届かない海底の環境とそこで生きる生物の話から、それをヒントに環境・エネルギー問題への新たな可能性に挑戦する研究をご紹介いただきました。 私たちが思い浮かべる生物は光合成をする植物とそれを食べる動物、つまり太陽エネルギーによる「光の生態系」です。しかし、光が届かない海底では、地熱など地球内部のエネルギーによる「暗黒の生態系」が広がっていることが分かってきました。
 そして海底の岩石には地熱を電気に変える熱電変換という能力があるそうです。海底の岩石は表面にマイクロ構造を持ち、このために電気を流すのに熱は流さないという変わった性質を持つからだそうです。さらに、最近は電気エネルギーで生きる微生物がいることが分かってきたそうです。生物にとって光エネルギーでも化学エネルギーでもない第3のエネルギー源があるということです。
 これらの研究を通して、現在大きな課題となっている環境問題の解決策が見えてきます。そして資源がない国と思われている日本は海洋資源大国であるという力強いメッセージで講演が締めくくられました。

 

演題:星とブラックホールが生み出す多様な世界

講師
国立研究開発法人理化学研究所
仁科加速器研究センター
玉川高エネルギー宇宙物理研究室
准主任研究員
玉川 徹(たまがわ とおる)博士

講演概要
 われわれの身のまわりに存在する元素の大半は、宇宙の始まりであるビッグバンと、夜空に輝く星々により作り出されました。生命を生みだし、近代社会を作る素となったこれらの元素は、今から約100億年前に大量に生成され、銀河の内部だけでなく、銀河と銀河の間の空間にも広くまき散らされたことが明らかになってきました。その過程では、ブラックホールが大きな役割を果たしていることが示唆されています。最新の宇宙観測により、元素の起源についてどこまで迫ることができたのか、宇宙誕生から138億年の歴史を絡め、わかりやすく解説します。

講演の様子
 すべての物質の基本要素である元素が、宇宙や星によってどのように作られたのか、最新の物理の研究に基づいてお話しいただきました。
 「私たちは何でできているのだろう」「私たちはどこからきたのだろう」という素朴な疑問に答えるのが素粒子原子核物理学と宇宙物理学です。これらの学問はどちらも仁科芳雄博士が研究していました。
 元素のうち水素とヘリウムは宇宙初期に作られました。それより重い元素は星が作りました。X線分光という方法で星を観測すると、星がどのような元素を作ったかが分かるそうです。それによると重い星は超新星爆発を起こして、炭素や酸素など比較的軽い元素を作ります。いっぽう軽い星は白色矮星になって鉄やニッケルなど比較的重い元素を作ります。さらに重い元素(金や銀など)はどうやって作られたのかまだ分かっていないそうです。そしてブラックホールは星が作ったこれらの元素をかき混ぜて広くまき散らしていることが分かってきているそうです。
 星やブラックホールがどのように私たちの世界を作ったのか、とても分かりやすい講演で、聴衆アンケートも大好評でした。