平成30年8月18日(土)
仁科会館 仁科記念ホール

 理化学研究所里庄セミナーは、仁科芳雄博士ゆかりの理化学研究所の研究者を招聘し、世界最先端の研究を一般の方々になるべく分かりやすくご講演いただいています。平成4年にスタートし今年で27回目となりました。今年は約100名の方が来場し、講演に耳を傾けました。

 

演題:合成化学で機能を創る

講師
国立研究開発法人理化学研究所
創発物性科学研究センター
創発分子機能研究チーム
チームリーダー
瀧宮 和男(たきみや かずお)博士

講演概要
 私たちの身の回りにはいろいろな物があふれていて、それらはさまざまな材料で構成されています。化学は役に立つ材料や新しい材料を作り出すことができ、プラスチックから医薬品まで私たちの生活になくてはならない多くのものづくりに貢献しています。20世紀に大きく発展した有機合成化学は、21世紀に入りそれまで対象としていなかったエレクトロニクス分野にも重要な役割を果たすようになっています。本講演では、私たちの研究室で生み出されたさまざまな化合物を紹介しながら、それらのエレクトロニクスへの応用について紹介します。合成化学が材料科学のための強力なツールとなることを感じていただきたいと思います。

講演の様子
 スマホ画面で使われ始めている有機ELや、今後私たちの生活を大きく変えると期待されている有機太陽電池や有機トランジスタの材料について、合成化学の観点からご講演いただきました。
 有機化学というと複雑な化学式が出てくる難しいイメージがありますが、瀧宮先生は分子の3次元構造を見せるソフトを使ったり色々な化合物の実物を披露したりすることで、分かりやすくご紹介くださいました。分子が集まって機能を創る例として液晶を取り上げ、白く濁った液晶をドライヤーで熱すると透明になる様子を実演し観衆の興味を誘っていました。続いて、エレクトロニクスに応用される有機物はどのような構造を持っているのか、そしてどのように合成するのかを詳しくご説明くださいました。曲げられる柔らかい太陽電池が蛍光灯の光で発電する実演では、聴衆からどよめきが起こっていました。
 最後に、今後の化学は持続的な社会の発展に貢献するというメッセージで講演が締めくくられました。

 

演題:キミたちの99.97%と宇宙の歴史

講師
国立研究開発法人理化学研究所
仁科加速器科学研究センター
スピン・アイソスピン研究室
室長
上坂 友洋(うえさか ともひろ)博士

講演概要
 普段の生活では気にもとめない「原子核」。実は皆さんの体の99.97%は原子核でできています。この原子核は、宇宙が生まれた直後から存在したわけではなく、重い星の巨大な重力や超新星爆発などの中で生まれ変わりながら地球にたどり着きました。原子核が宇宙の歴史の中で辿ってきたこの道筋が、最先端加速器施設「理研RIビームファクトリー」の実験から垣間見えてきています。
 本講演では、RIビームファクトリーで得られた最新の結果を紹介しながら、原子核が宇宙の中で辿ってきた旅路に皆さんとともに思いを馳せたいと思います。

講演の様子
 私たちの体を作る原子核が宇宙の中でどのように作られ、この地球上に存在しているのかお話しいただきました。
 私たちの体は37兆個の細胞でできていて、細胞1個あたり300兆個の原子でできている、つまり37兆かける300兆個の原子でできているという話から始まりました。その原子の重さの99.97%は原子核が占めています。この原子核のうち鉄までの比較的軽い元素は星が作ることが分かっています。鉄より重い原子核は宇宙の爆発的現象で作られたという「rプロセス」仮説が有力ですが、rプロセスで作られる原子核は不安定で、今まで作れなかったので詳しく分かっていないそうです。理研の最新鋭の加速器(仁科博士が日本で初めて作った実験装置)を備えた施設「RIビームファクトリー」によってこれらの原子核を作れるようになり、現在進行中のrプロセスに関わる原子核の寿命や質量などの研究についてお話しくださいました。
 聴衆に積極的に語りかけ飽きさせることのないご講演で、大変好評でした。