理化学研究所里庄セミナー

第29回 理化学研究所里庄セミナー

  • 令和5年8月19日(土)
  • 仁科会館 仁科記念ホール
第29回 理化学研究所里庄セミナー
 理化学研究所里庄セミナーは、仁科芳雄博士ゆかりの理化学研究所の研究者を招聘し、世界最先端の研究を一般の方々になるべく分かりやすくご講演いただいています。過去3年間は、新型コロナウイルス感染症のため中止となってしまいましたが、今年は4年ぶりに開催することができました。平成4年に開始し今年で29回目となりました。今年は約100名の方が来場し、講演に耳を傾けました。

演題:細胞培養研究の歴史と細胞イノベーション

中村 幸夫先生
講師 : 中村 幸夫(なかむら ゆきお)先生

国立研究開発法人理化学研究所
バイオリソース研究センター 副センター長
細胞材料開発室 室長
創薬iPS細胞研究基盤ユニット ユニットリーダー

講演概要

私達の体は細胞の集合体です。私達が呼吸をし、心臓を拍動させ、毎日食事を摂ることによって、体の中の細胞の一個一個が生きています。この細胞を、体の外に出して生かしておこう、さらには増やそう、という研究が約100年前にあり、人類は細胞を「培養する」という方法を確立しました。ヒト癌細胞株、胚性幹細胞株等は、細胞培養研究史における金字塔です。2012年にノーベル賞を受賞したことで多くの人が知っているiPS細胞作製技術は、今世紀最初の、そしてもしかすると今世紀最大の細胞培養研究史における金字塔です。講演では、こうした細胞培養の歴史を紹介し、現在では細胞培養技術がどのような研究や医学応用へと発展しているのかをご紹介します。

講演の様子

 まず、20世紀初頭から始まった細胞培養の歴史の初期の重要な成果として、1915年に山極勝三郎先生が後天的な要因で癌(がん)ができることを発見し、間違いなくノーベル賞に値する成果であるという話がありました。この研究によって癌には治療可能な種類もあるという事が分かり、半数が癌で亡くなる現代において医療への貢献も非常に大きいです。
 ヒトの癌細胞の作製により不死化細胞が作製された事、あらゆる細胞になれるES細胞の作製によりキメラマウスの作成が可能になり遺伝子機能の解明が飛躍的に進歩した事、ヒトES細胞の作製により再生医療の道が開けた事など、細胞培養の歴史における重要な節目とその応用について明快に説明されました。そしてES細胞が未受精卵を使うという倫理的な問題がiPS細胞によって解決され、再生医療や病気の研究に使われるようになったとの事です。
 細胞培養の歴史とそれによる生物研究の発展や医学応用という大きなテーマを分かりやすくコンパクトにまとめた講演でした。

演題:サイクロトロンが切り拓く未来

奥野 広樹先生
講師 : 奥野 広樹(おくの ひろき)先生

国立研究開発法人理化学研究所
仁科加速器科学研究センター
加速器基盤研究部 副部長
加速器基盤研究部 加速器高度化チーム チームリーダー
加速器基盤研究部 低温技術チーム チームリーダー
核変換技術研究開発室 室長

講演概要

仁科芳雄博士は、1932年にサイクロトロンが発明されてから僅か5年後に、日本初のサイクロトロンを完成させました。当時、仁科博士は、日本の物理研究の未来を切り拓くためには、サイクロトロンの様な加速器が必要不可欠であることを強く思っていました。実際この1号サイクロトロンは、数多くの重要かつ新しい研究成果をもたらしました。理研では、この仁科博士の志を継いだサイクロトロンが更に8基建設され、その内の5基は現在も世界最高性能を誇る原子核加速器施設「理研RIビームファクトリー」で稼働しています。本講演では、理研のサイクロトロンの歴史とともに、現代の加速器技術と科学の発展をたどります。さらに今後取り組むべき加速器の課題を皆様と共に考えていきたいと思います。

講演の様子

 「今日、一つだけ覚えてほしいのは、サイクロトロンは掃除機ではないという事です。」という言葉で講演が始まりました。サイクロトロンは粒子加速器の一種で、加速の原理を解説されました。
 次に仁科博士に始まる理研のサイクロトロンの歴史の話がありました。仁科博士の死後に初めて製造された3号機は、1号機と同型ですが性能を上げるために様々な工夫を凝らしており、当時は部品や工具も理研で作っていたそうです。9号機SRCは世界最高のビームエネルギーで、欧米の人たちが製造を諦めたほどの困難を賢い設計と日本の技術力で乗り越えたそうです。SRCの色は奥野先生が決め、桜色にしたかったのが紫色になった結果、エヴァ色とも呼ばれる特徴的な色になったそうです。
 サイクロトロンは医療応用も盛んで、陽子線、BNCT、重粒子線による治療やPET診断に数多く使われているそうです。
 これからの話として、原子力発電の最大の問題である高レベル放射性廃棄物を加速器を用いて低減し資源化する取り組みを紹介されました。

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