第25回 仁科芳雄博士生誕日記念科学講演会開催
平成29年12月10日(土) 里庄総合文化ホールフロイデ大ホールにて

講師:梶田 隆章 (かじた たかあき) 先生
東京大学宇宙線研究所長・教授

演題:「姿を変えるニュートリノとニュートリノの小さい質量」

地元の中学生及び一般聴講者約800名を前にご講演いただきました。

講演概要
 ニュートリノは観測することが難しく、近年までニュートリノには質量がないと思われていました。しかし、宇宙線と呼ばれる宇宙から飛来するエネルギーの高い粒子が大気中でつくるニュートリノを観測し、1998年ニュートリノの種類が飛行中に別な種類のニュートリノに変化するニュートリノ振動という現象が発見され、ニュートリノに小さい質量があることがわかりました。この観測は、岐阜県飛騨市神岡にあるスーパーカミオカンデという巨大な測定器を使ってなされました。本講演ではどのように姿を変えるニュートリノとニュートリノの小さい質量が発見されたのかについてお話しし、そしてその意義などにも触れたいと思います。



講演の様子
 2015年に「ニュートリノ質量の存在を示すニュートリノ振動の発見」によりノーベル物理学賞を受賞された梶田隆章博士にご講演いただきました。ニュートリノという中学生になじみのない話を、非常に丁寧に分かりやすくお話しいただきました。

 初めに、ニュートリノとは何かについて説明がありました。ニュートリノはとても小さくこれ以上分解できない素粒子の一種で、3種類あります。めったに反応しないので測定するのが大変ですが、ごくまれにぶつかって別の素粒子が飛び出し、それが水の中を走ることで光を出します。したがって、ニュートリノを測定するには水槽と光検出器を用意すれば良いことになります。

 梶田博士は宇宙から降ってくる「宇宙線」というエネルギーの高い粒子が、地球の大気とぶつかってできるニュートリノを測定しました。ちなみに、「宇宙線」の研究を日本で始めたのは仁科芳雄博士で、当時多くの世界的な業績をあげていました。その一例としてミューオンの発見について紹介されました。

 梶田博士が大学院生の時、ノーベル賞受賞者である小柴昌俊博士の研究室に所属して「カミオカンデ」という装置を作りました。研究者自ら作ったそうで、ヘルメット、長靴、作業着という姿で、ゴムボートに乗って光検出器を巨大な水槽に取り付ける作業中の小柴研究室の面々の写真が披露されました。梶田博士は「この頃を思い出すと本当に楽しくやりがいを感じた。自分の性分に合っていた。」と語っていました。そしてこの実験に出会えて研究者になることを決意したとの事で、中学生には「将来のことをまだ決めてなくても大丈夫。きっとやりたいことが見つかります。」とエールを送ってくださいました。

 そして、カミオカンデの測定データを解析するプログラムを作ったところ、ニュートリノの数が予想より少ないという結果が出たそうです。はじめはプログラムを間違えたと思い、1年間いろいろ検討した結果、解析は間違っていないと確信したそうです。そこでこの結果を論文にまとめて発表したのですが、当時は世界の研究者の間で非常に評判が悪かったそうです。ですが、梶田博士は「この当時が一番楽しかった。何か重要な謎があり、それを解き明かすワクワク感があった。」と語っていました。

 この謎を説明する仮説「ニュートリノ振動」は当時から知られていました。ニュートリノが飛んでいるうちに姿を変えるという現象です。この仮説を実証するために、戸塚洋二博士をリーダーとして「スーパーカミオカンデ」を作りました。こちらも研究者自ら作ったそうです。そして見事に「ニュートリノ振動」の証拠をつかむことに成功し、ノーベル賞につながりました。

 ニュートリノの質量は、他の素粒子に比べるとケタ外れに小さいことが分かってきています。それは宇宙の成り立ちと関係するそうです。宇宙の成り立ちには物質と反物質の数がわずかに違うことがとても重要ですが、なぜ違うかが大きな謎になっていて、この謎のカギがニュートリノの小さい質量であると考えられているとのことです。

 ニュートリノ振動の発見の当事者ならではの臨場感にあふれる話でした。穏やかな口調で、分かりやすく真摯に語る姿に、梶田博士の人柄が感じられるご講演でした。


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