演題:アジア初、日本発の新元素『ニホニウム』
講演概要
この世界に存在するものすべてを構成する90種類ほどの元素。それらの元素は天然に存在するものの中から発見されたものです。また元素には人工合成によって作り出され、発見されてきたものもあります。原子番号が93以上の元素は、すべて人工合成によって合成・発見されてきました。
今回、「元素周期表にアジア初、日本発の名前を書き込む」という日本の科学者の夢が、ついに叶いました。私たち理研を中心とする研究グループが発見した「113番元素」を、国際機関が2015年12月30日(日本時間31日早朝)、新元素であると認定しました。私たちは応援してくださった日本の皆さんのことを思い、新元素を「ニホニウム」と命名いたしました。IUPACによる最終決定がなされれば、元素名‘nihonium’と元素記号‘Nh’が周期表の一枠を占めることになります。講演では、これまでの経緯と今後の研究についてお話しいたします。
講演の様子
地元の中学生及び一般聴講者約500名を前にご講演いただきました。
アジアで初めて新元素を発見した森田浩介先生が、「ニホニウム」発見までの経緯と今後の新元素発見への研究について、ユーモアたっぷりにお話しくださいました。「ニホニウム」の名前が三日前に正式に決まったばかりというベストタイミングでのご講演となりました。
森田先生の講演の前に、理研仁科加速器研究センター長の延與秀人(えんよひでと)先生が「宇宙歴138億年にわたる元素創生」と題してご講演くださいました。宇宙がどのように元素を作ったかについて、そして人類が加速器という実験装置で再現していることについて、大変分かりやすくご説明くださいました。
加速器には3種類あり、そのうち2種類は理研が世界一の装置を持っているそうです。その理由は仁科芳雄博士が理研で始めた研究を現在まで引き継いでいるからということです。そして、森田博士の元素合成はこの世界一の加速器を使い、「東京から富士山の頂上のグリーンにパターで入れる感じ」というくらいに難しい実験を成し遂げたということです。
延與先生のお話の後、森田先生のご講演が「キターーーーーー!」というスライドから始まり、あちこちから笑いが起きていました。ですが、話が進むにつれてこの言葉が本当に実感に満ちた言葉であることが分かってきました。
「113番元素(ニホニウム)」を作るためには「30 + 83 = 113」という足し算ができれば良い、つまり「30番元素(亜鉛)」と「83番元素(ビスマス)」を合成すれば良いということでした。足して113となる組み合わせの中で掛けて一番小さいものが良いのですが、世の中に存在する元素を使う必要があるので亜鉛とビスマスを選んだそうです。
世界で最初に113番元素を合成するために、すべての実験装置を世界一にしたそうです。この実験はとても難しく森田先生は3回成功しましたが、それは400兆回ぶつけ続けた結果であり9年間かかったそうです。「目が200個あるサイコロを毎日振って、1が出るのを待ち続けるようなものだ」と語っていました。
科学の魅力はまだ誰も知らないことを見つけること、一度始めるとやみつきになるほどとても楽しいので一緒にやりましょうと、中学生たちにメッセージを贈ってくださいました。そして次に新しい元素を発見したら仁科博士の名前をつけたいとのことで、今後の研究も大変楽しみにしています。