仁科芳雄博士生誕日記念科学講演会

第27回 仁科芳雄博士生誕日記念科学講演会

  • 令和元年12月13日(金)
  • 里庄総合文化ホール「フロイデ」電動中ホール
矢野 安重先生

講師 : 矢野 安重(やの やすしげ)先生仁科記念財団常務理事・理化学研究所仁科加速器科学研究センター特別顧問

演題:世界一となった理化学研究所のサイクロトロン  -仁科芳雄博士のサイクロトロンから世界最大の超伝導サイクロトロンへ-

講演概要

 年表は、仁科芳雄博士が日本初のサイクロトロン(理研1号)を建造してから現在のRIビームファクトリーへと綿々と続く理研のサイクロトロン建造技術の進歩を軸に、サイクロトロンの研究対象である原子核がその放射能の発見以来どのように理解され、どのように利用されてきたかをスケッチしたものです。
 RIビームファクトリーでは、かつて建造不可能と思われた「超伝導リングサイクロトロン」が世界で初めて実現しました。この次世代の重イオン加速器施設は、天然に存在しない原子核を人工的に発生させる能力が世界に冠絶しています。この施設の誕生によって、原子力を生み出すウランが宇宙でどのようにして生まれたかという「元素の起源」の解明や、そのウランを原発で燃やすとできる廃棄物のやっかいな放射能を低減化する研究がはじめて可能になりました。

講演の様子

 里庄中学校の2年生・3年生及び一般聴講者約250名を前にご講演いただきました。インフルエンザによる学年閉鎖の影響で、1年生は急遽欠席となってしまいました。

 サイクロトロンは日本では仁科芳雄博士が初めて作りました。矢野先生はその流れを引き継ぎ、30年間以上理化学研究所でサイクロトロンを作り続け、ついに世界一の超伝導サイクロトロンを完成させました。その性能は圧倒的に世界一であると力説され、2年半かけて組み立てる様子をビデオでご紹介くださいました。

 このサイクロトロンの最大の特徴は元素変換の能力が非常に高いことです。元素変換をするのになぜサイクロトロンが必要か、サイクロトロンはどのように原子核を加速するのかについて説明がありました。そして、元素変換によって、新元素の発見、元素の起源の解明、原発からの放射性ゴミの有用化、がん治療、突然変異による植物の品種改良への応用など、サイクロトロンを用いた多岐に渡る研究の話がありました。

 「これらの研究はすべて仁科博士が始めた研究です」という言葉から仁科博士の話題に移ります。

 仁科博士は、東京帝国大学では電気工学を学びエンジニアを目指しました。ところが理化学研究所に入所し、その後ヨーロッパに留学して物理学の研究を始めます。2年間の留学期間が終わる直前に、デンマークのボーアに宛てた研究したいという手紙を書きます。そしてボーア研究所に行き、エックス線分光学で頭角を現しました。7年半にわたるヨーロッパ留学の最後の年に理論研究に転身しクライン・仁科の公式を導きました。

 帰国後は当時最新の物理学である量子力学を広めました。そして理化学研究所で仁科研究室を創設し、宇宙線実験やサイクロトロン実験に注力します。これらの研究は、その当時、湯川秀樹博士が予言した新粒子を探したかったのだろうと推察します。パウエルが宇宙線実験で、ローレンスがサイクロトロン実験で湯川粒子を見つけますが、仁科博士も同じ夢をみていたのではないかということでした。

 仁科記念財団に残っている仁科研究室の入っている建物が壊されることになり、仁科研究室も理化学研究所に移転することになりました。移転前にバーチャルリアリティ用の3次元データを取り、その様子を動画で紹介したあと、データを里庄に提供しますとのサプライズ発表で講演が締めくくられました。

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