仁科芳雄博士生誕日記念科学講演会

第26回 仁科芳雄博士生誕日記念科学講演会

  • 平成30年12月7日(金)
  • 里庄総合文化ホール「フロイデ」大ホール
松本 紘先生

講師 : 松本 紘(まつもと ひろし)先生国立研究開発法人理化学研究所理事長

演題:科学と未科学 ~未来社会はどうあるべきか~

講演概要

 私達の生活を快適なものにしてきたのは、間違いなく科学技術の力です。それは、今後も変わるものではありません。実際に、20世紀初頭「夢」と思われていた技術の多くは現代社会において実現されています。これらは不便を便利に、不快を快適にとより良い生活を求めて科学技術が進歩してきた結果です。こうして世界を変えてきた科学技術には「普遍性」、「論理性」、「客観性」が備わっています。
 しかし、私たち人間は様々な価値観を持ち、ときに感情的で、個々の主観に基づき行動します。多様性にあふれる世界や人生を、科学や技術のみで記述することは不可能ではないでしょうか。
 未来社会へ進む私たちは、科学と未科学にどう向き合うべきか、どのような力を身につけて、どのような社会を創るのか、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

講演の様子

 地元の中学生及び一般聴講者約500名を前にご講演いただきました。

 まず、理化学研究所の歴史と仁科加速科学研究センターの森田グループによるニホニウム発見の話から始まりました。

 1901年に発表された100年後の未来予想を示し、23個の予想のうち19個が実現していることを紹介し、「想像力と科学力が未来を創ってきた」と説明がありました。今後の未来予想として、環境破壊や資源枯渇の問題から地球はいつまで住めるかと問いかけました。このような問題はなぜ起こるか、起こったらどうするかを考える必要があります。さらに、科学的に大きな変化が人類の精神文化にどのような影響があるかも考えねばならず、そのためには文系と理系の融合が必要であると話されました。

 そして、本講演の演題にある未科学の話に入ります。多くの科学者は科学の範疇に入らない課題は取り上げませんが、こういう態度は間違っていると松本先生は考えます。未科学とは松本先生の造語で、まだ科学とはなっていないが科学となるだろう対象を非科学の中から見極め、科学者は勇気をもって未科学の世界に乗り出さなければならないと力説されました。次に、あなたには夢はありますかと問いかけます。基礎研究とイノベーションを結びつける試みはなかなかうまくいかないのですが、この原因はビジョン(夢)が共有されていないからだとのことです。理化学研究所ではこの課題を解決するためにイノベーションデザイナーの養成を始めているとの事です。

 現在は学問の細分化が進んでいますが、未知の問題を解決するには統合化が重要です。中学生の頃には多彩な教科を学んでほしい、そしてネットの情報だけでなく自分の目で見ることが大事だとメッセージを送ってくださいました。最後に中学生に「4ガクのすすめ」がありました。知識や経験を増やす「学力」、思いやりや情けを司る前頭葉を鍛える「額力」、言葉や健康の源となる食をになう「顎力」、人間力の源泉となる楽しむ力「楽力」の4つです。

 非常に広い視野に立った講演で、中学生だけでなく一般の聴講者も得るところが多い内容でした。

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