仁科芳雄博士生誕日記念科学講演会

第28回 仁科芳雄博士生誕日記念科学講演会

  • 令和4年12月9日(金)
  • 里庄総合文化ホール フロイデ大ホール
中村 栄三先生

講師 : 中村 栄三(なかむら えいぞう)先生岡山大学名誉教授・岡山大学自然生命科学研究支援センター特任教授

演題:小惑星リュウグウが物語る太陽系と生命の起源

講演概要

 太陽系の成り立ちに関する研究は、主に起源が不明瞭でかつ地球上での汚染が避けられない隕石の解析によって行われてきました。しかし、探査機「はやぶさ2」による地球外物質サンプルリターンは、目的とする小天体の表面観測を基に採取された、地球上での汚染が限りなく少ない試料を人類にもたらしました。
 私たちは、「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの試料5.4gの内16粒55㎎を用いて、精密かつ詳細な総合解析を世界に先駆けて行いました。試料の分析結果と現地で実施した観測結果を合わせて議論することが可能となったことで、生命の起源物質と考えられるアミノ酸や大量の水の形成過程など、リュウグウの起源と進化過程を明らかにすることができました。
 本講演では実際の分析データを紹介し、太陽系形成以前の星雲の時代から現在のリュウグウに至るまでのダイナミックな歴史をお伝えします。

講演の様子

 地元の中学生及び一般聴講者約450名を前にご講演いただきました。

 小惑星には地球には残っていない太陽系形成直後の物質が残っているので、太陽系と生命の起源の謎を解くカギがあるはずです。中村先生が長年所長を務めた岡山大学惑星物質科学研究所は、JAXAの探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウのサンプルを解析するグループに選ばれています。

 この研究所では中村先生が主導して、惑星の物質を連続的・総合的に測定して惑星の謎を解明するための「地球惑星物質総合解析システム」を構築してきました。このシステムによってリュウグウのサンプル解析を進めた結果、液体の水による変質とその後の再凍結があった事、温度0~30℃の状態を経ている事、太陽系誕生から260万年後に炭酸塩鉱物が形成された事が分かったそうです。

 これらの解析結果と理論計算を組み合わせると、海王星の外側にある大きさ数十キロメートルの氷天体が30℃を超える温度まで温まり再び凍ったと推論されるそうです。リュウグウは地球と火星の間にあり大きさも1キロメートル以下ですから、リュウグウの正体はこの氷天体が破壊された破片の一部が現在の位置まで移動してきた小惑星であるというダイナミックな結論が導かれます。

 また、リュウグウのサンプルから有機物として23種のアミノ酸が検出されたそうです。その中にはたんぱく質の材料となるアミノ酸も含まれており、地球の生命の起源となった可能性があります。

 最後に月への移住計画について壮大なビジョンが語られました。月には生活するために必須の元素である水素・炭素・窒素がありませんが、小惑星にはこれらの元素が豊富に含まれているため、小惑星を月に落とせば自給自足ができるとの事です。そして「月への移住を実現するのは中学生のあなたたちです。」というメッセージで、講演が締めくくられました。

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